小説・メルトモ交遊録

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zoom RSS 第五章 葵と二郎 18. 登山電車(2)

<<   作成日時 : 2007/10/04 23:33   >>

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   「あの無精髭、日本人らしいけど、だらしなく口を開けて眠ってるわ」

    サングラスの下から薄目でそれを見ていた二郎は、あわてて口を閉じよ

   うとしたが、それだと狸寝入りがバレてしまう。ここは眠った振りでと頭

   の力を抜きイビキをかく。

   「そんなの見なければいいじゃん」

    髪の短い女は無関心なのか、前を向いたままで素っ気なく応じた。

   「だって、男を見ると自然に目がいっちゃうんだもの」

   「恵子ったら、もっと男を選びなさいよ。私だったらそんな男、見向きも

   しないな」

    これで、髪の短い娘に対する二郎の好意も一気に吹き飛んだ。それでも、

   髪の短い娘の名がアオイ、髪の長いのがケイコとだけは分かった。

    緑の樹々、そして大地の茶、それに加えて山の峰を包む銀白の雪、紺碧

   の空、豊かな色彩が走りゆく窓の外に広がっている。これで感動しない旅

   人がいたら旅をする資格も意味もない。いや、そんな男が……二郎はすで

   に睡魔に襲われつつあった。こんな近くに若さに溢れたすてきな娘が二人

   もいるのに、もったいない話だ。うつらうつらした二郎は、分厚いステ−

   キを食べる夢を見て口を動かした。

    それでも二人の娘の声だけは耳に入る。二人は移り行く景観に夢中のよ

   うだった。

   「あら、あそこの川で釣りをやっているわよ」

   「マスかしら?」

   「あっ。釣れた!」

    その声で浅い眠りから目覚めた二郎が一瞬、視線を外に投げたときは、

   すでに釣り人の姿は林に隠れて川の流れだけが見えた。二郎は、娘達を

   眺めてからまた目を閉じた。その瞼の裏側に、立ち上がって騒いでいる

   二人の横顔が残像になって残った。

    短い髪で目の大きい丸顔のアオイという娘は、ほどよく厚みのある唇、

   笑顔がなかなかチャ−ミングだ。茶系のジャケットの下に豊かな胸のふく

   らみを秘めた赤いセ−タ−、形のいいヒップを包んだ濃茶のワイドパンツ

   もなかなか似合っていい。足元はよく見えなかったが通路を歩いたときに

   見たのは黒のスニ−カ−だった。あれだと動きも軽そうだ。

    ケイコという髪の長い娘は、切れ長の目で形のよい鼻、やや受け口でい

   かにも男好きするタイプだった。紺のハ−フコ−トにクリ−ム色のセ−タ−、

   コ−トと同系の紺のスラックス、細面だから実際よりはスリムに見えるよう

   だ。足元は記憶にないが、アオイという娘と色違いのスニ−カ−だったよう

   な気もする。職業柄、一瞬の記憶には自信がある。

    二郎は、それらを確認するように眠った振りをしながらサングラスの下の

   目を薄く開いて前を見ると、ケイコという娘と視線が合った。いや、娘から

   は見えないはずだ。

    案の定、ケイコという娘が、アオイに囁いているのが聞こえる。

   「あの男の職業、当てっこしようか?」

   「職業? いいけど、確認はどうするの?」

   「本人に聞くのよ。ジャンケンできめて」

   「本人に? どんな男なの?」

    そこで、髪の短いアオイという娘が立ち上がって振り向いた。

   「あら、無精髭だけどまあまあじゃない」

    二郎は寝たふりのままサングラスの下の目を細めて娘のつぶらな瞳を見つ

   めた瞬間、心臓の鼓動が早まるのを感じてうろたえた。アオイという娘に一

   瞬で好意を抱いたのだ。

    しかし、その好意もわずか数秒の夢だった。娘が口走った言葉が夢を砕い

   たのだ。

   「今どき皮ジャンで黒メガネ、女に逃げられた失業中のヒモって感じね?」

   「葵はヒモと見たか……じゃあ、私は競馬の予想屋、それも当たらないヤツ」

   「いい線ね、でも違うな。もしかすると麻薬の運び屋かな?」

   「あ、そうか……それもありね」

   「恵子。運び屋より殺し屋って線は?」

    声が小さくなり現実味を帯びてくる。二郎は呆れながら聞き耳を立てた。

   「怖い! 夕べ見た、あの死体……」

   「あいつの仕業かしら? 東洋の男だし」

   「絶対そうだわ、間違いなしよ。こうなりゃ、徹底的にマ−クして……」

   「警察に突き出す手ね」

    アオイという娘が携帯を二郎に向け、すかさずシャッタ−を切った。

    意見の一致した二人が顔を見合せ、真剣な表情で頷いている。この娘達は

   見かけに寄らずすごいことを言う。二郎はがっかりして今度は本当に目を

   閉じた。

    だが、なぜかアオイという娘が気になる。どこかで聞いたような名前だ

   からだ。

   「どれどれ、見せてよ」

    ケイコという娘が、アオイが撮った写真を見て笑っているのが気配で分

   かる。ここまでは許せる。その後で「メ−ルが来てるわ」とアオイが言い、

   再び携帯を眺める気配があって、「なにこれ、また『同じく』じゃない!」

   と叫んだ。ケイコという娘は「この人、頭おかしいんじゃない?」とまで

   言う。こうなると人ごとながら許せない。

    その理由は、二郎も時々この相手と同様に、「同じく」という文面を使

   うからだ。

    世の中には同じ思考の人間もいるものだ。でも、そんなヤツと一緒には

   されたくない。

   これからは、「same」とか、横文字に変えよう、と二郎は思った。

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